PLOTTERが革を使う理由
vol.2
「革ってなんだかいいよね」
こんな言葉が本物の革製品を手にする人からよく聞かれる。他愛もない言葉かもしれないが、実はこの言葉は作り手からするととても重みをもつ。
なんだかいいよね・・・の境地にまで至るその背景には一言では語りつくせないたくさんのストーリーが散りばめられている。革製品を持つ人が、使う人が、潜在的に、五感を研ぎ澄ましながら、直感的に発する言葉は本当の真実だ。
なぜ革製品をいいと思うか、なぜそれを持ちたいと思うのか・・・それは、使う人に寄り添うだけのロマンがそこにあるからなのだろう。
ここで革製品に“ロマン”がある所以を少し紐解こう。
このテーマのvol.1で話したように、人類は有史以来、副産物としての革製品を身につけ、いまだその魅力にあやかっている。PLOTTERを、あるいは革製品を好きな方はもうすでにご存じかと思うが、副産物として得た動物の「皮」を道具としての「革」にするには、文字通り革を柔らかくすると書かれるように“鞣(なめ)す”工程は絶対に欠かせない。まだ現代のように皮をなめすタンナーがない原始の時代、人々は狩猟後の副産物である皮を歯で噛み、柔らかくほぐし、身に纏う革製品に仕上げていた。
当時の鞣しと言えば、今のような効果的な薬品があるわけでもなく、100%自然の力を信じ、それを利用して皮を革にしていた。その自然の力が植物タンニンと称されるものである。
普段でもよく耳にするであろう“タンニン”とは、多くの植物の樹皮や葉、木の実や根っこなどに含まれる成分で、例えば、渋柿や栗の実の渋皮だったり、お酒を嗜まれる人にとっては赤ワインの苦み成分がタンニンであることも周知の事実であろう。
最近ではポリフェノールとも総称されるこのタンニン。少々、科学的な見地から申し上げると、タンパク質やコラーゲン、金属成分などとたやすく結合する特性を持つポリフェノールの一種でもある。
ところで、タンニンの語源を辿ると、“tan”という英語に行きつく。この意味はまさに「皮をなめす」であり、「タンニン」はここに由来する。そしてその語源通り、古来から皮を鞣すために使われてきた。なぜなら、先にも述べたがタンニンは、皮に存在するタンパク質やコラーゲンと結合して繊維と繊維の間に沈着することで、皮が腐りにくくなったり、熱にも強くなり、また現代の工法では薬品の刺激にも耐久性を見せ、最終的には皮を柔らかくし革にするにはもってこいの成分だったからだ。
少なくはなったが今もなお継承されている植物タンニン鞣しは、30以上の工程を経て、実に1ヶ月以上も時間がかかるとても手間のかかる革製法だ。そして、安いコストで大量生産が可能なクロム鞣しとよく比較されるが、どんなに非効率で高コストであってもいまだに植物タンニン鞣しが選ばれるのには、それが単に伝統的な手法だからという以上の理由が確実にある。
まず、自然界にナチュラルに存在するミモザやケブラッチョ、チェストナット、オークなどの樹皮から抽出されたタンニンが植物タンニンの代表であり、地球環境には圧倒的に優しい。しかも、それは家具や紙を製造する際の余剰木材から二次的に抽出されており、天然素材を無駄なく最後まで使い切るという観点からもエコであり、植物タンニン鞣しの革製品は最終的には土に還るという。
また、使う人とともに時を刻めば刻むほど、深みや艶といった革らしい質感がどんどん増していき、まさに“育つ”エイジングが楽しめるのが植物タンニン鞣しレザーの醍醐味。特に、リスシオやプエブロなど“革の本場”イタリアにおいて継承されるバケッタ製法によって鞣されたレザーはその最たるもの。エイジングも持つ人によって独自性をより際立たせ、ふたつとない風合いを味わうことができる。
どうだろう、語りつくせば切りがないが、人々に「革ってなんだかいいよね」と言わしめるその根拠にはこれだけの、いやこれ以上の奥深いロマンがあるわけで、時空を超えて今もなお革好きを魅了し続ける理由、そしてPLOTTERが革に執着し使い続ける理由が確かに存在するのだ。