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現代の生き方のヒント
「PLOTTER MAGAZINE」
[Interview No.009]

さまざまな世界において活躍する「PLOTTER」の行動力は創造性に溢れています。

「PLOTTER MAGAZINE」は、彼らの考え方や価値観を通して、過去から今までの歩みをたどり将来をポジティブな方向に導く変革者たちを応援します。

私たちが創るツールと同じように、ここに紹介する「PLOTTER」の物語が、みなさんにとってのクリエイティビティのヒントになれば幸いです。

9人目となるInterview No.009のPLOTTERは、 ARTFREAK ディレクターの成田 秀さんです。

 

“創造”の前に“想像”がある。

紙に文字を綴ることで、

思考はより明確化されていく。

 

現代を生きる私たちの暮らしは、さまざまなモノやサービスに囲まれている。それはライフスタイルを美しく彩ってくれたり、快適で心地よい生活をサポートしてくれたり、安心・安全を支えてくれたり、すべてが“誰か”の手を介し、彼らの真摯な努力のうえに成り立っていると考えられるだろう。

そんなモノやサービスは世の中へ流通する前に、展示会で発表されることが多い。成田秀さんが所属する「ARTFREAK」では、展示ブースの企画・デザイン・施工などを手掛けており、成田さんはこの業界に足を踏み入れて40年以上という大ベテランだ。展示会では「BtoB」もしくは「BtoC」をターゲットとすることがほとんど。成田さんの仕事は「Business(企業)」と「Customer(消費者)」をつなぐ橋のようなものであり、両者にとって大切な存在である。

成田さんは穏やかな口調で言葉を紡ぐ。その話からは熟練者としての深みが感じられ、あらゆる仕事においてクリエイティブな視点が不可欠なのだと気付かされる。

――現在のお仕事を選ばれたきっかけをお聞かせください。

「何かモノをつくる仕事に就きたいな」とは、中学生くらいから思っていたんですよ。父は造船の設計士をしていたので、その影響もあるのかもしれません。ただ幼い頃に父が亡くなり、「早く就職して家計を助けたい」という思いがありましたから、工業高校のデザイン科に進学したんです。絵を描くのが好きだったとか、美術が得意だったとか、そういうわけではないんですけど、なんとなく「デザイナーってカッコいい」って思っていたのでしょうね(笑)。

高校では工業デザインを学んでいました。ところが1973年に第1次オイルショックが起きたため、企業が総じて採用を見送ったんです。就職先がなければ働きたくても働けない。それで大学へ進むことにしたんですね。専攻は教育学部の美術科。美術の先生を目指したのですが、その後いろいろ思うところがあり、途中で断念しました。

そんな時、高校時代にアルバイトをしていた会社が「大学を卒業したらウチへ来なよ」と声を掛けてくれたんです。その会社は「ARTFREAK」のような展示会ブースの施工などを行なっていて、百貨店の催事場を中心に制作していました。

――やはり「手を動かすこと」が楽しくて、そちらの会社への就職を決めたのでしょうか?

それもあります。でも一番惹かれたのは、普通の仕事をしていたら会えないような方にお会いできることでした。華道の家元とか、日本を代表する芸術家とか、そういう方と会えるのが刺激的で面白かったんですよ。加えて仕事でご一緒する方々はみなさん筋の通った考えをお持ちで、お話をしているとさまざまな気付きを得られました。

この会社には1997年までお世話になり、その後、同じ業界で5年間フリーランスとして働きました。現場管理や図面の制作などを請け負っていましたね。「ARTFREAK」に入ったのは2002年。「新しく内装関連の部署を立ち上げるから、手伝ってほしい」とオファーを受けて、現在に至ります。

――「ARTFREAK」ではどのようなお仕事をされているのですか?

「ARTFREAK」は「空間プロデュース」と「グラフィックコンテンツ」の2つを主な事業内容としているのですが、私が携わっているのは「空間プロデュース」の領域。展示ブースや店舗、ショールームなどの企画、デザイン、施工を行なっていて、私の仕事はいわゆる「現場監督」になります。クライアントさんからのお話を翻訳して、大工や塗装屋といった職人さんたちに指示をする。そして打ち合わせ通りに進んでいるかを細かくチェックしていくんです。

「こういうことを伝えたいから、こんなことをやりたい」と、ビジョンがまとまっているクライアントさんもいれば、イメージがぼんやりした状態のクライアントさんもいます。後者の場合は「なぜ」、「何」を、一歩突っ込んで聞き出さなければ、いい空間がつくれないんですね。例えば展示会のブースで製品を乗せる台を「四角ではなくて、丸くしたい」と担当者が話したとき、そのまま「はい、わかりました」ではいけません。会話を重ねていくと、「来場者の動線を踏まえて、方向性をなくしたい」といった理由が見えてくるんです。丸い台にすると施工費用は上がってしまいますが、理由が分かるとこちらから別の提案もできるじゃないですか。クライアントさん自身が気付いていないことを探り当てるのも、重要だと感じています。

――だからどのクライアントさんも、成田さんに信頼を寄せているのでしょうね。

「いいブースができたよ」、「理想以上の店になった」と言っていただけると、やっぱり嬉しいですね。クライアントさんの目的は空間をつくったその先にあります。空間づくりが上手くいくと、その先の最終的な目標が達成しやすいと思うんですよ。

「こんなものがあったら、世の中良くなるよね、楽しくなるよね」といったことを考えるのがデザイナーやプランナーだとしたら、彼らの頭の中にある考えをカタチにし、それらを享受する人たちにつなぐのが私たちの仕事。結果、みんなが喜んでくれるんです。こういった経験は仕事の醍醐味のひとつですね。

――お仕事をするうえで、常に大切にされていることとは?

“確認”ですね。この業界に入ったとき「現場に職人は来ないと思え」と言われました。もちろん職人さんが来ないと作業はできませんし、すべての職人さんに当てはまる訳ではありません。でも「明日の現場、よろしくね!」、「わかったよ!」とやりとりしても、来ない職人さんが実際にいるんですよ(笑)。だから密に連絡を取り、絶対に来てもらう。「職人は来ないと思え」というのは、「確認を怠るな」という意味なんです。

確認って訓練なんですよ。朝、家を出るときも、財布持った、ハンカチ持った、電気消した、とかやりますよね。ああいう指差喚呼をやるんです。私たちの業界は安全確認も重要ですから、あらゆる場面で確認が大切になってくる。

――職人さんそれぞれに応じて対応を変える、毎回異なる現場に合わせて作業を進めていく、まだまだたくさんあるかと思いますが、成田さんのお仕事は非常に創造性が求められるのですね。「全く同じ」というケースがない。

僕は“創造”の前に“想像”があると思っています。「こうなってほしい」と考えるのに必要なのは想像力、イマジネーションですね。その次にくるのがクリエイティビティです。

 

――なるほど。頭の中にある考えをまとめるときは、どのようなアクションを取られていますか?

私の場合は、必ず紙に書きます。打ち合わせの内容も、現場での状況も、その日気付いたことも、まずはメモに書いておく。そして自分の考えをまとめるとき、改めて「PLOTTER」のバインダーに書き綴るんです。使用している4mmドット方眼の『リフィルメモパッド』は、思考をシステマチックに構築しやすいツールなんですよ。

――書くことで、いま向き合っている物事についての情報を記録し、思考し、整理していく。

そうですね。私は書くことでより深く考えられる。それに、書かないと頭に入らないんですよ。事務的な連絡事項は洋服のポケットに入る小さなメモ帳に、休日の出来事や旅先で見つけた美味しいお店など、仕事以外のことは別のノートに書いています。

 

――ノートと同様に、仕事とプライベートのオンオフもしっかり切り替えているのですか?

いや、一人の人間ですから、切り替える必要はないと思っています。旅先で素敵なお店に入ったら、「内装のこのディテール、いま制作中の空間で使えそうだな」と考えてしまう。でもそれは決してマイナスなことではないんです。よくデザイナーさんが「お風呂に入っていると、フッとアイデアが湧くときがある」って言いますよね。それと同じです。

とはいえ2020年で私は65歳。これからはよりプライベートを充実させる、といいますか、ロングトレイルを始めるつもりです。まずは青森県八戸市から福島県相馬市までの太平洋沿岸を結ぶ「みちのく潮風トレイル」を歩いてみたいなと。複数のルートでつながっているので、ひとつずつ挑戦していきますよ。

――職場やお取り引き先の方々は、「もっと成田さんと仕事がしたい!」とお考えだと思います。みなさんのお気持ちを代弁するようですが(笑)。

同僚だったり、お客さまだったり、「成田に頼みたい」と感じてもらえるのは光栄なことです。その気持ちには、しっかり応えたいですよね。

先ほどお話しした“想像”、“イマジネーション”は、いくつになっても磨き続けていたい。考えることを止めると、ついつい気が抜けてしまいますから。そこはしっかりキープしていきたいですね。

 

――最後に、成田さんにとって「PLOTTER」とは、どんな人間像だとお考えでしょう?

私は「PLOTTER」というツールを使って思考を集約し、アウトプットされたことから気付きを得て、それを自分自身で受け止めています。だから「PLOTTER」とは、「絶えず考える人」なのではないでしょうか。

 

【成田 秀 ・ ARTFREAK DIRECTOR】

1955年   埼玉県浦和市生まれ

1980年   ノバ工芸株式会社にて展示会・商業施設を担当する

2002年   株式会社アートフリーク入社・ディレクターとして現場総監督を勤める

趣味はフライフィッシングとウクレレ

HP  www.artfreak.co.jp