「KING OF LEATHER」
シカゴペンショーに臨む前日、
革に携わって20年来の夢、
アメリカのキング オブ タンナーと言っても
過言ではない“Horween leather ”に立ち寄ることができた。
ミシガン湖を臨むシカゴの中心地から車で30分ほど西に向かった、ある意味普通の街に佇むタンナー。趣ある煉瓦作りの建物が周りの環境と馴染み、アメリカでの、そしてシカゴでのひとつの偉大な産業としてそれを強く守り抜く誇りさえ感じたものだ。
代々、伝統的な革作りを継承し、今もそれを次の世代へ伝えるべく仕事を続けるホーウィンファミリーの4代目オーナー スキップ氏がにこやかに迎え入れてくれた。
タンナーの工場内を見渡せば一目瞭然だが、この時代になっても木製のドラムとピット層を大切に守っている彼らからは、不思議とモダンなインフラを拒絶する素振りさえ感じられない。むしろ、いいものはなんでも受け入れるよ、と。でも、彼らのお気に入りのレザーを作るためにあるべくしてあるそれぞれの設備は、当然のように古く、味わいのあるもの。ステンレスのドラムでは絶対に仕上がらない昔ながらの革らしい風合いを求めて、手間と時間がかかってもそこに執着する姿勢は、私たちが忘れかけていた非効率の良さをあらためて教えてくれた。本物の革はここから(しか)生まれないのだと。
アメリカといえば、ある意味人々の生活に馬が欠かせない時代があったおかげで、ホーウィンの“シェルコードバン”がタンナーを代表する代名詞になったのも頷ける。それにしても、こんなにもコードバンの原料となる山積みの部位を見たのは人生で初めてで、圧倒されたのは確か。副産物としてこれだけ取れてしまうわけだから、それはしっかり最後まで使ってあげないといけない!とあらためて同じ革産業としての使命を感じた。
構内に広がるピット槽は広大で、植物タンニンがたっぷり染み込んだなめし途中の皮たちがその中に浸かり、ゆらりゆらりと気持ちよさそうに水中でたなびく様は壮観だった。半年近くかけてだんだんと強めの渋に皮を馴染ませていくことで、丈夫で風合いある革がなめされる昔ながらのピットインなめし。決して、効率を求めて先を急がない革作り。そして、フルハンドメイドによる仕上がりの個体差こそ革らしさの真骨頂と言わんばかりに、乾燥工程で仕上がり前の革がずらっと並ぶ姿は一頭の動物がしっかり生きた証をこれでもかと訴えているようだった。
今回のシカゴペンショーでは、ホーウィンレザーへのオマージュとも言うべき、彼らのもう一つの代表作“クロムエクセル”というオイルスムースレザーをカスタマイズの目玉にしたわけだが、なぜだろう、一度そのオイリーな風合いを味わい、美しいプルアップを目にすると即座に虜になってしまうオーラをそれは秘めている。そして、もちろんその本物の革にはシカゴの人たちも直感的に惚れ込み、カスタマイズ用の革ストックでは1番に姿を消していった。
こんな魅力的な素材たちを作れる彼らの仕事がとても神々しく、革好きの心を掴んで離さない宝物をいつもそばにしているホーウィンレザーが羨ましい限り。でも、その背景にはきっと血の滲むような努力があったのだろうな〜と一言では言い表せられない歴史の重みを感じる。
次期5代目オーナーとなるニック氏がニヤッとして一枚の革の端切れを持って語った。「これが俺の超お気に入りのスーパークロムエクセルなんだ」と、PLOTTERのレザーバインダーに使ってくれと言わんばかり。
そしてすかさず、父親のキップ氏が「どうだい?この味あるシェルコードバンは!床面まで絶品に磨いてやったぜ」と割り込んでくる。
このHorween leatherはこの先も当分安泰だ、そんなことを思わせてくれる微笑ましいやりとりとともに、いつか彼らの革でPLOTTERを!という想いを強く心に秘め、タンナーを後にした。