eyecatch
News

ONE OF A KINDS
Sustainable since forever.
~植物タンニン鞣し革の可能性~
「イタリアタンニン鞣し革協会セミナーより」

私たちは私たちの生まれた瞬間からの時代しかリアルを味わえないし、自分の言葉では、実感を伴って味わった過去しか語れない。今、今日これを書いている2023年、とても便利な時代なのだと思う。いろいろな幸せを享受できているから。人間の知恵と行動力で私たちを取り巻く環境は計り知れない進化を遂げてきた。事実、私が生きてきた50年だけ見ても、その目まぐるしい変化を味わってきたという実感だ。現実は“便利”という一方向のシンプルな言葉ひとつでは語り尽くせない今の世の中であるし、 実は不便なことも生まれているのかもという観点も大切にしたいのだが・・・とりあえず一度便利と感じたモノ・コトを経験すると引き返せない人間の性を十分味わってきた。そして、その変化のスピード感と刺激に圧倒されながら、一方でおそらく便利さの追求から生まれた事物に間接的にでも起因する負の遺産について私たち人間は直視をしてこなかったのも事実であろう。綺麗ごとは言いたくない。私自身も便利さと引き換えにたくさんの負を蓄積してしまったから。それは少なからずこれからも・・・。

石油由来の合成素材が人間の開発能力を伴って地球上に存在し始めて久しい。元をたどればそれは私たちが今存在する地球という惑星から生み出されたのは間違いないのだが、人間は過去の天然有機物に着目し、ある意味強引にその堆積物を発掘し、現代に形を変えて蘇らせた。確かに数百万年前に自然と均衡を保った今の石油由来の素材。しかしながら、当然のようにその合成素材は現在の自然環境とはバランス的に相容れないプラスチック素材として存在する。人間はある意味卓越したノウハウと技術で合成素材をプロダクトに作り替えた。一見便利なプラスチック製品たちに。ところが、昨今のニュースで欠かさず報道される環境問題においてそれらは敵視され、今となってはその代替素材を生み出すべく私たち人間は躍起になっている。ここ最近の国連データによれば、プラスチック廃棄物は年間3億トンにも及び、そのうちリサイクルされるのはたった9%、12%が焼却され、79%が埋め立てられているという。驚愕だ。。。

「環境への深刻な影響が・・・」と漠然としたフレーズが世の中に溢れつつも、いまいちそのリアルを体験している人の方が少ないのではないだろうか。プラスチック素材は経年とともに極小のプラスチックに形を変え、時に環境はおろか私たち人間にも危害を及ぼす脅威という。焼却ができたとしてもそれは少なからず二酸化炭素の排出につながる。完璧はあり得ないのは誰もが分かっている。でも、石油由来製品の便利さはあえて享受しつつも、今となっては、そのあり様や私たちの思考の転換が必要とされるのは間違いないであろう。

バイオエコノミーという言葉を聞いたことがあるだろうか。EUの政策執行機関である欧州委員会が定義したその内容には「再生可能な生物資源の生産、循環性、その廃棄物を食品、飼料、バイオベース製品、バイオエネルギーなど、(持続可能な社会を実現するために)高付加価値製品に転換すること」とある。
重要なキーワードを拾い上げると・・・
・再生可能
・循環性
・高付加価値
という言葉だけでも、私たち人間が生み出した好例と、将来にわたっての大切なTODOが見えてくるのではないだろうか。

ここで、その好例のうちの一つがPLOTTERも恩恵にあずかる“植物タンニン鞣し革”、なのだとあらためて提唱したい。

出典: イタリア植物タンニンなめし革協会

緑が生い茂る元祖地球の姿。現代に命を宿した動物(主に牛)は弱肉強食の世界はありつつも、一部はこの草木をしっかりと食べ、育ち、食べられ、土に還り、肥料となり、また新たな緑へとつながっていく尊い循環性を保つ。大昔、私たち人間はそこに介入を試みた。動物を食用としてその命をいただき、すでにその時代に鞣しの技術を体得し、副産物としての皮革を纏い寒さをしのいでいた。ここに石油由来の合成素材が介在する余地はなく、地球規模の観点から見れば自然のバランスはまだ良好だったのだろう。

時を経て、マニュファクチャリングとしての皮革プロダクトを生み出すノウハウを蓄積した現代人。物があふれ、その善し悪しの判断を複雑かつ困難にならしめた資本主義が生み出した矛盾は数多あれど、それだけ多くの産物を同時に比較できる時代にあって、ただの皮革ではない“植物タンニン鞣し革”こそが伝えらえるメッセージがある。

食用やあるいは寿命を迎えた動物たちの皮に副産物としての付加価値を与え、自然の木々から抽出した渋(タンニン)を使って、それを腐敗しないように鞣すというワザは、中世から今に至るまで継承されている実はハイレベルな再生技術。とてもアナログで時間を要する製造工程だが、そのサスティナブルな意味をしっかりと理解しているから、私たち人間は昔ながらの皮革製造工程を大切に育んできたにちがいない。

興味深いデータがある。皮革製造の本場イタリアの由緒ある組織「イタリアタンニン鞣し革協会」がここ最近本気で分析を行った数字だ。それは、あらゆる素材が含む“バイオベース炭素含有量”を数値化したもの。バイオベースの炭素比率が高ければ高いほど、二酸化炭素を生み出す要因となる成分を含まず、環境にやさしいというわけだ。そんな中、トスカーナにある当協会に属する19のタンナーの植物タンニン鞣し革がランダムに集められ調査された。そこで示された数値は驚くなかれ、実に成分中の8割がバイオベースと分析された。一方で、ヴィーガンやクルエルティフリーという観点で皮革に替わる代替素材「〇〇〇〇レザー」といったバイオ由来をアピールした合成素材を見てみると、その数値は(もちろんすべてでないが)ほぼ4割以下に落ちることも分かったそうだ。つまり、バイオ由来の含有を唱えつつも、製造のためにどうしても必要な化石由来成分には触れていないケースが散見されたのである。

私たち人間が生きるこの地球において、(人間が生きているからこそ)完璧な世の中も、パーフェクトな環境維持やモノづくりもあり得ない。しかしながら、思考転換により将来へ向けてより意味のあるであろうアクションを起こすことは可能だ。少しでも持続可能な高付加価値製品やサービスを生み出すために。前述の通り、人間が生み出したものであるが故に、皮革製造をもってしてもそれは完全ではない。それを作るのだって、さまざまな環境負荷は与えているのだから。ただ、殊、皮革そのもの、さらには“植物タンニン鞣し革”というプロダクト自体に目を向ければ、それは究極のアップサイクルである副産物であり、ほぼバイオ由来であり、丈夫であり、育てがいがあり、修繕もできて、次の世代にも伝えられる唯一無二の素材なはずだ。少なくとも、ただ捨てるのではなく、皮に新たな利用価値を与えて環境負荷の少ないものを生み出し、それを使い続けるという行為はとても尊いものだと思うのである。