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現代の生き方のヒント
「PLOTTER MAGAZINE」
[Interview No.017]

さまざまな世界において活躍する「PLOTTER」の行動力は創造性に溢れています。

「PLOTTER MAGAZINE」は、彼らの考え方や価値観を通して、過去から今までの歩みをたどり将来をポジティブな方向に導く変革者たちを応援します。

私たちが創るツールと同じように、ここに紹介する「PLOTTER」の物語が、みなさんにとってのクリエイティビティのヒントになれば幸いです。

17人目となるInterview No.017のPLOTTERは、メイクアップアーティストの山田千尋さんです。

 

常に意識しているのは、
モデルの魅力を最大限引き出すこと。
幼い頃に夢見た世界で、どんなときもベストを尽くす。

 

鮮やかに染まった髪をなびかせて、山田千尋さんは今日も撮影の現場へ向かう。小柄な彼女が携えているのは、たくさんのメイク道具を詰め込んだスーツケース。重たそうなそぶりも見せず、コスメやメイクブラシなどを手際よく並べ、モデルやアーティスト一人ひとりと真摯に向き合っていく。
生まれたのは広島県の小さな島。美容専門学校卒業後は、東京、ロンドンと拠点を変え、常に前だけを見て突き進んできた。これまで培ってきた知識と技術、そしてグローバルな感覚を身につけ、活動のベースを東京に戻したのは2020年。多彩な表現力を武器とする山田さんの物語は、まだまだ始まったばかりだ。

 

――幼い頃からメイクに興味があったのですか?

小学生の頃、自分の顔があまり好きではなかったんです。でもメイクや髪型で印象は変えられるじゃないですか。「カリスマ美容師」と呼ばれる方々がメディアに登場される時代だったことも重なり、当時から将来は美容師になろうと考えていました。


メイクアップアーティストを意識したのは中学生くらいです。大きなきっかけがあったわけではないのですが、憧れられる存在をつくる側の人間になりたいと思ったんです。自分に自信がもてないとき、テレビや雑誌で目にする方々はとっても華やかで、たくさんの元気をもらいました。でもきっとそれは私だけではないはず。だからみんなが「素敵だな」と思う方々の魅力を、存分に引き出せる仕事に就きたかったんです。
自分でメイクや髪のカラーリングを本格的にするようになったのは、広島美容専門学校に進学してからですね。私は広島県の江田島出身なのですが、髪をあまり明るく染めたりすると「山田さんの家の娘さんは不良になった」と思われてしまって(笑)。休みの日にネイルを塗ったり、校則に触れない範囲でヘアスタイルを楽しんだりはしていましたけど、中学、高校はわりと真面目に生きていました。

――専門学校卒業後は、都内の美容院に就職されたそうですね。

私が入社した当初はヘアメイクの仕事を積極的に行う美容院ではなかったのですが、スタイリストになるまでの教育カリキュラムが整っているところに惹かれたんです。だけどメイクの撮影の仕事がしたいという気持ちに変わりはありません。髪のことは美容院で学ばせていただいていたので、働きながら資生堂が運営するヘアメイクスクールに通いました。専門学校でメイクの授業もありましたけど、その当時最先端のプロダクトが使えたわけでもないですし、プロの知識としては不十分。メイクの仕事をいただいたとしても、私はしっかり教わっていないことを「できます」と言ってこなせるタイプではないので、技術に自信をつけたかったんです。
ヘアメイクスクールにいってよかったなと思うのは、メイクを基礎から学べたことはもちろん、エネルギッシュな同期のメンバーに恵まれたことですね。年齢も住まいもバラバラですが、みんなとはいまもつながっていますし、いい刺激をもらっています。
私が選んだのは半年のコースだったので、卒業後もそのまま美容院で働き、無事にスタイリストになりました。ただしばらくして海外に出たいと思うようになって、イギリスのワーキングホリデーのビザが取れたことを機に退職したんです。

――どうして海外に行こうと思われたのですか?

美容院に勤めながら、たまにメイクさんのアシスタントをさせてもらっていたんです。モデルさんは日本人だけでなく外国人の場合もあるのですが、現場の空気を盛り上げるのもアシスタントの仕事なのに、私は英語が苦手だったのでコミュニケーションがとれないんですよ。それで怒られてしまうこともあって、英語漬けの環境に身を置けば、否が応でも話せるようになるかなと(笑)
あと、海外の方が黄色人、白人、黒人といったいろいろな人種の肌に触れる機会が多いと思ったんです。「ブルーのアイシャドウ」とひと言でいっても、モデルさんの肌によって似合う色は違いますから、その勉強もしたいなと考えました。

――日本では得られない経験がたくさんできそうですね。

そうですね。ロンドンで活動されているメイクアップアーティストのアシスタントをしたかったので、気になった方にInstagram のダイレクトメールから「あなたのアシスタントに就きたいです」とメッセージを送るところからはじめました。想像していた以上にみなさんお返事をくださって、現場をお手伝いさせていただいたり、そのご縁から自分の作品撮りをしたり、実際にさまざまな人種の方と撮影ができたこともありがたかったです。ロンドンは親日派の方も多く、優しい方ばかりだったので、とても充実した日々を過ごせました。

最初にロンドンへ行ったのは2017年、ビザが切れたので2019年の3月頃に帰国しました。もっとロンドンに滞在していたかったのですが、就労ビザの取得はなかなか難しいんですね。美容院へ就職すればよかったのかもしれませんが、そうするとメイクの仕事ができなくなってしまいます。まずは日本でお金を貯めて、もう一度ロンドンへ行こうと考えたものの、ロンドンで築いた人とのつながりを断ちたくなかったので、3ヶ月おきのスパンで向こうには通っていました。でも行けば行くほど出費がかさんで、お金が貯まらないんです(笑)。だから最後の勝負だと決めて、2020年の年明けに改めてロンドンに渡りました。

――2020年初頭というと、新型コロナウイルス感染症が世界各国で感染拡大しはじめた時期ですよね。

はい。2020年7月中旬に日本に帰ってきたのですが、滞在中4ヶ月以上はロックダウン。ロックダウン中は「PLOTTER」のダイアリーに日記やモヤモヤした思いを書き綴っていました。私は書道を20歳まで習っていて、もともと手書き派というのもあるんですけど、読み返すとその頃の心情が感じ取れるんです。時間はたっぷりあったので、フェイスマッサージの勉強、新しいメイクのアイデアスケッチ、やってみたいビューティー企画など、日記以外にもいろんなことを紙に書いていました。

コロナが収束する兆しがみえなかったこともあり、帰国したら日本で働こうとは思っていたんです。ちょうどそのタイミングでメイクの仕事をいただく機会に恵まれたので、日本を拠点に活動することにしました。

――日本ではどのようなお仕事をされていますか?

アパレルブランドのルックブック、ミュージックビデオ、雑誌に登場されるアーティストさんや俳優さんのメイクなど、幅広くお仕事をさせていただいています。メイクのテイストもモード系からナチュラル系までさまざま。メイクアップアーティストとして独立してから間もない分、いまはいろいろな仕事をしてみたい気持ちが強いんです。やってみたいことを強いてあげるなら、デビューからずっと寄り添っていけるアーティストさんと出会えたら嬉しいですね。アーティストとしての成長とともに、その方の多面的な表情を見せていけるわけですから。あとはチームをつくって、自分のメイクをファッションショーのランウェイで表現してみたいなと思っています。

――メイクアップアーティストとしての山田さんの個性を、ご自身ではどのようにとらえていますか?

「山田千尋の仕事だ」と分かっていただくメイクを確立するまでには、もう少し時間がかかりそうです。でもメイクに個性があると、この現場はナチュラル系が得意なあのメイクさん、この現場はモード系が得意なあのメイクさん、という風にアサインされたりするんです。自分はどこかにカテゴライズされるというよりも、その日のその人を最高のところまで引き上げられるメイクがしたい。この思いはメイクの世界を志した頃から変わっていません。

たとえば、メンズだとパッと見でメイクの有無が分からなかったりしますけど、「朝、スタジオに入ったときより、なんかすごいよくなったね」と感じていただけるように。それはファンデーションを綺麗に塗ったからなのか、マッサージをしたからなのか、自分とのなにげない会話を通じて気持ちが上がったからなのか、何が理由でもいいんです。大切なのはその人のベストをつくれるかどうかですから。
私は「技術はあって当たり前」という考えなんです。技術力を高めるには、地道な修行を積み重ねるのみ。そしてアイデアを求められたとき、瞬時に提案できる引き出しをもっと増やしていきたいと思っています。

――インスピレーションの源を教えてください。

鉱石や貝が好きで、眺めているとインスピレーションが湧いてきます。色合いも質感もひとつとして同じものはない圧倒的な美しさ。自然の造形物ならではの神秘的なグラデーションや独特の質感といったエッセンスの数々を、メイクにも取り入れています。
自分で言うのはおこがましいのですが、メイクアップアーティストのUDAさんの感性に感銘を受けることがよくあります。古来より伝わる季節を表す暦「七十二候」をモチーフにしたメイクや、和菓子のような繊細な美を表現したメイクなど、UDAさんの作品には品があって、本当に素晴らしい。心から尊敬するメイクアップアーティストであり、雲のうえの方のような存在ですが、いつかどこかでお会いすることができたらと願っています。

――最後に、「PLOTTER」とはどのような人間像だとお考えでしょう?

自分の直感を信じ、自分軸で発信する人。私はもともと、周りを気にしながら行動するタイプだったんです。だけど自分を信じるって、一番大事なことだなと気がついて。いまは自分が感じたものを信頼し、それを作品で表現しています。

 

山田 千尋・ Makeup Artist

都内にて美容師経験を積んだのち渡英しメイクアップアーティストとしての経歴をスタート。
現在は東京を拠点に活動中。
幼少期より習っていた書道の筆の運びや、鉱石、貝など自然の生み出す色味からインスピレーションを受けることが多い。

Instagram    @chi_i1026