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現代の生き方のヒント
「PLOTTER MAGAZINE」
[Interview No.022]

さまざまな世界において活躍する「PLOTTER」の行動力は創造性に溢れています。

「PLOTTER MAGAZINE」は、彼らの考え方や価値観を通して、過去から今までの歩みをたどり将来をポジティブな方向に導く変革者たちを応援します。

私たちが創るツールと同じように、ここに紹介する「PLOTTER」の物語が、みなさんにとってのクリエイティビティのヒントになれば幸いです。

22人目となるInterview No.022のPLOTTERは、インテリアスタイリストの遠藤 慎也さんです。

 

現実には存在しない部屋。
そこに個性や気配を宿し、空間をつくりあげていく。
今しがたまで、人が暮らしを営んでいたかのように。

 

雑誌で見かけた遊び心溢れるリビング、スクリーンに映し出されるモダンな空間、ショップを構成するスタイリッシュな世界観、インテリアスタイリストは依頼に応じ、さまざまなシーンをつくりだす。それは目にした人、訪れた人の
クリエイティビティを高め、物欲をも刺激する。インテリアスタイリスト・遠藤慎也さんが主宰する「BOOTSYORK.style」の名称の由来は「物欲」。遠藤さんは「自分も物欲が強いということもあって」と笑うが、遠藤さんがスタイリングする空間は、確かに「欲しいもの」で溢れている。というよりも「欲しくなってしまう」のだ。その理由は空間に宿るペルソナが、美しさと居心地の良さを兼ね備えた、リアルな暮らしを見せてくれているからであろう。

――インテリアに興味をもたれた契機をお聞かせください。
中学、高校生の頃、「お部屋改造計画」のようなテレビ番組をよく見ていたんです。手がけていたのは、のちに師匠となるインテリアスタイリストの窪川勝哉さん。その番組がすごく楽しくて、番組で得た知識を自分の部屋に取り入れるようになったのが、インテリアに興味をもつきっかけとなりました。もともと手を動かすのも好きでしたから、照明や棚をつくるなどDIYもよくやっていましたね。実家では農作物をつくっていたので、農具を自作するための工具はたくさんあったんです。僕が学生だった90年代~00年代初頭は、ミッドセンチュリーブームの真っ只中。自分も例にもれず、チャールズ&レイ・イームズの「シェルチェア」やジョージ・ネルソンのウォールクロックなど、開放的な色使いと独創的なデザインをもつプロダクトの数々に惹かれていました。そういった背景もあって建築学科のある大学への進学も検討したのですが、僕はやはりインテリアの世界の方が好きだなと感じて。なのでまずは高校付属の大学へ進み、社会学部で消費者心理を専攻したんです。

――インテリアスタイリストになると決められたのは、どのタイミングだったのですか?
高校から部活でフェンシングに打ち込んでいたんです。フェンシングで食べていこうとまでは思っていなかったもののけっこう真剣に取り組んでいて、大学でも部活に入り、授業が終わると練習に明け暮れる毎日でした。ただ大学3年の春にケガをしてしまい、部活に出られなくなってしまったんですね。やることがなくなってしまったなと感じていたとき、自分にはインテリアがあったなと、ふと気づいたんです。それで大学4年から、ダブルスクールでインテリアの専門学校に通い始めました。学校は窪川さんが講師を務めていたところです。窪川さんとつながっておけば、インテリア業界に入り込めるという確信があったので、よく現場に連れて行ってもらいました。やることは撮影で使用する家具などを運んだり、梱包をしたりと、アシスタントの初歩的なこと。しかし僕は就職活動もしていませんでしたし、ここで将来に結びつけなければ後がありません。だから前のめりなくらい積極的だったことは確かです。

――インテリアスタイリストという仕事の、どのような点に魅力を感じたのでしょうか?
額縁に入れて飾れるものを生み出せる人に対し、ずっと憧れのような気持ちを抱いていたんです。写真家や画家など、いわゆる“アーティスト”と呼ばれる方々ですね。表現できることは素敵だなと思いつつ、僕にはできないだろうと感じていました。でもあるとき、インテリアスタイリストならば、それができるんじゃないかと気づいたんです。たとえば雑誌のインテリアページを彩る空間もそのひとつ。フォトグラファーさんが撮影した写真ではあるけれど、インテリアスタイリストは床と壁しかないまっさらな空間に家具や小物を配置し、額縁で飾れるくらいの画づくりができるんですよ。お部屋取材的な企画は別として、雑誌の中にある空間はもともと存在していなかったものです。誌面で紹介するために、ゼロから空間をつくりあげていく。僕はそこに、ペルソナをつくりだし、実際に人が住んでいるかのような温度を感じさせるスタイリングをしていきたいと考えました。「この部屋にはこんな人が住んでいるんだろうな」と想像できるような空間です。

――それが遠藤さんのインテリアスタイリストとしての個性や強みにもつながっているのですね。これまでのご経歴について話を戻させていただくと、専門学校卒業後は窪川さんのアシスタントになられたとか。
はい。約6年間、窪川さんのアシスタントをしていました。窪川さんは雑誌をはじめ、テレビ、カタログ、広告、商業施設など、幅広い仕事を手がけていて、いろいろな現場を見させていただけたのは非常にありがたかったです。またインテリアのみならずプロダクト全般に造形が深い方なので、引き出しの数をたくさんもつ重要性についても考えさせられました。つまりインテリアスタイリストの仕事は、センスよりもどれだけものを知っているかが大事だということ。多種多様な案件がありますから、それぞれの企画に応じたものを瞬時にイメージすることが要となってくるんです。

――なるほど。遠藤さんは2011年にインテリアスタイリストとして独立し、「BOOTSYORK.style」を設立されました。独立にあたり、どんな思いを掲げましたか?
ファッションのスタイリストさんだと、「モードなスタイリングはあの人が強いよね」といった得意分野をもたれる方が多いんですね。だけど僕は媒体を問わず、いろいろなスタイルをつくれるスタイリストになりたいと考えました。だからいまは、自分が好きなスタイルもとくにないんですよ。それは決してマイナスにとらえていなくて、むしろ異なるスタイルをミックスさせることで生まれる相乗効果があると思っています。たとえば北欧とミッドセンチュリーのテイストを混ぜてみる、といったことですね。そうすると、スタイリングの幅もより広がりますから。また、屋号の「BOOTSYORK(ブーツヨーク)」は、日本語の「物欲」を由来とした造語なんです。僕の仕事は「このアイテムが欲しいな」と、感じていただけるものが並ぶ空間にスタイリングすること。写真や映像を見て「カッコいい空間だな」という印象だけで終わってしまうのでは意味がありません。「これが欲しい」、「こういう部屋で暮らしたい」と、物欲を起動させる仕事がしたいと思い、この名を付けました。ちなみに「BOOT」には「起動」という意味もあるので、そこにも掛けています。

――お仕事の醍醐味とは?
クライアントの方々から「素敵な空間をつくってくれてありがとう」と言っていただけることは、とても嬉しいですね。そしてさらに「遠藤さんがスタイリングした空間を見て、このアイテムをご購入されたお客さまがいたよ」というお話を聞くと、涙が出るほど感激してしまいます。仕事のプロセスでは、スタイリングを終え、フォトグラファーさんに撮影していただき、写真があがった瞬間。そのときに一番、やりがいを感じます。

――インテリアコーディネートには、色数や家具の高さを揃えるなど専門的な基礎知識が必要かと思うのですが、自室のスタイリングに自信のない方に向けて、ひとつだけアドバイスをお願いいたします。
ご自身が好きなものに囲まれている空間が、ベストなのではないでしょうか。家具の選び方や置き方、小物の飾り方、照明の扱い方など、専門的なことはもちろんありますよ。ホームパーティーを開ける部屋にしたいとか、ゲストルームにするとか、その部屋をどんな用途で使用するかによっても変わってくる。でも自分の部屋、自分が楽しむ空間であるならば、あえてルールにのっとる必要はないと思うんです。お気に入りのものって気分が上がりますし、家時間も充実しますよね。それに「使っていて楽しい」といったものの提案をするのも、僕の仕事なんです。掃除道具だって「あの箒のデザイン、素敵だな。あの箒を使っている自分ってカッコいいな」と思えるものであれば、面倒なはずの掃除は楽しくなり、ライフスタイルもより豊かになるはず。そういうアクションが生み出せるスタイリングをしていきたいと考えています。

――これまでのキャリアの中で、ターニングポイントとなったお仕事はありますか?
2014年、雑誌『THE DAY』のインテリア特集で、ショートショートのような文章に描かれた人物がまるでそこに住んでいるような部屋をイメージして、スタイリングする仕事があったんです。文章は4パターン、同じ部屋を使用して4パターンのスタイリングを手がけました。実際には存在しない人、存在しない部屋ではあるものの、その人の気配を感じさせる空間。偶然にも、僕がインテリアスタイリストとして仕事をするうえで常に心がけていることが、企画のテーマだったんです。この雑誌の仕事を通じ、やっぱり自分はこういう空間をつくり出すことが楽しいんだなと、再確認できた気がしました。

――ところで遠藤さんは、オンとオフをしっかり切り替えていますか?
完全なオフにするため、10年ほど前から休みのたびにキャンプへ出かけています。東京にいると、車を走らせていても新しいお店が気になったり、カフェへ行っても空間が気になったり、どこで何をしていてもオンの状態になってしまうんですね。だから仕事に関する情報が一切入らない環境を求め、山へ行っている側面もありました。キャンプを始めてから、オフの時間の大切さを改めて感じています。ただ最近は趣味が高じ、アウトドアシーンのスタイリングやグランピング施設のコーディネートといった仕事が増えてきたので、どうしても仕事のことを考えてしまいますが(笑)。

――ご活躍の場がどんどん広がっているのですね。新たに挑戦してみたいお仕事はありますか?
ファッションショーのランウェイの装飾をやってみたいです。ランウェイはコレクションを発表する、その一時のためだけの空間となりますよね。細部までつくり込みながらも、ショーの終了と同時に消えてしまう儚さにも惹かれるんです。

――最後に、「PLOTTER」とはどのような人間像だとお考えでしょう?
欲を起動させるもの、何かしらの欲につながる表現をする人、そんな風に感じています。

 

【遠藤 慎也・ Interior Stylist】
株式会社BOOTSYORK代表。雑誌・カタログ・広告・WEBメディア・CMなどの撮影現場でのインテリアスタイリングのみならず、住宅展示場、ウィンドウディスプレイ、VMDなどのインテリアコーディネートも手掛ける。

HP
http://bootsyork.style/
Instagram
@bootsyork.style